柏原 直樹

我々の目標

 内科医、医師を志した限りは、良き医師になりたい、卓越した内科医を目指したいと誰しも願うところです。我々も日々それを問うています。良き医師に求められる要件とは何でしょうか。現時点で私共はこのように考えています。良き医療者であるか否かの判断は、医療の受益者である患者さんと御家族が下すものです。病気の平癒、外傷の治癒、健康の快復は言うまでもありません。しかし残念ですが、この目標は未達成に終わることが少なくありません。では医療は常に挫折と敗北を余儀なくされるのでしょうか。そうではないことを私共は知っています。患者さん自身あるいは患者さんを唯一無二の存在として愛しむ御家族が、真に望むところは何か。私共はその祈りを深く理解し、それに応えたいと願っています。そして応えうる力を日々たゆまず磨きたいと願っています。

 不条理と言わざるを得ない運命に翻弄されながらも、かけがえのない日々を生きる方々と共に、“なぜ私ではなくあなたなのか”という答えのない問いを念頭において、病気の克服に立ち向かいと考えています。

腎臓・高血圧内科

 腎臓病の成因、臨床的意義は大きく変貌しています。かつては腎臓病の最も忌避すべき結末は腎不全への移行でした。ところが、近年は軽度のアルブミン尿・蛋白尿、腎機能障害の存在は、遠い将来の腎不全リスクである以上に、近い将来に生じうる脳卒中、虚血性心疾患、心不全などの心血管病、認知症などのQOLを低下させる病態と強く関係することが明らかになっています。

 なぜでしょうか?腎障害の成因そのものが短期間の間に変化したです。末期腎不全の原因疾患は、かつては圧倒的に慢性糸球体腎炎でした。この30年間に糖尿病が激増し、それを反映し1998年以降、糖尿病が腎不全の第一の原因疾患となりました。動脈硬化を原因とする腎硬化症も腎不全の原因疾患として増加しています。

 しかしこれとて氷山の一角でした。この周辺に腎不全には容易に至らず、高率に心血管病を発症する膨大な数の一群が出現したのです。今日、慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease:CKD)と呼んでいる病態の主体はここにあります。CKDの成因には、耐糖能障害・糖尿病、肥満、メタボリックシンドロ-ム、高血圧、喫煙、加齢が関係しています。

疾患の成り立ちを“遠い眼”で洞察する

 慢性腎臓病増加の背景には、日本人の生活習慣の変化と高齢化が関与しています。「生活習慣病」の原因を我々はもっぱら過食と運動不足、すなわち自己責任に帰しがちです。それはむしろ表層的な理解ではないでしょうか。心臓、膵臓、腎臓等の重要器官は生後の外界環境に最適化すべく母胎内で形成されます。戦中・戦後の乏しい栄養環境で母体内を過ごし、出生後に想定外の豊かな社会の到来を迎え、その結果「生活習慣病」に脅かされているのが、現代の中高年世代ではないでしょうか。我々が現在、享受している豊かな社会を築いたのが、この世代の懸命な努力であることに思い至れば、その不条理性を思わずにはいられません。

 我々はこの不条理に挑戦し克服したいと強く願っています。眼前の事象だけでなく、日本人の生活史に深く根ざした疾患の成り立ちをも洞察したい。そのような力を有するPhysician Scientistでありたいと願っています。

 志を共有する若者達の参集を願っています。